「晩夏」/shu
りないようだ
困ったように頬を強張らせるきみの手からヨーヨーを奪いとって
かわりにしっかりときみの手を握った
月明かりの静まり返った住宅街
どこかの家の庭先からコオロギや知らない虫の声が聞こえてくる
「手が汗ばんでる」
ときみが言うので
「そりゃおまえだろ」
と返して 二人して服で手をごしごしとぬぐって
再び手をつないだ
ちょっとちからを込めると握りかえしてくる君のゆび
ぼくたちの結んだ手のひらの中で立ち去りがたい夏が
ひっそりと呼吸しているようで
気がつくといつのまにか きみのマンションの前まで来ていた
「ここの螺旋階段はハイヒールだとあぶないの。でものぼりは大丈夫」
と見上げるきみ
青暗い空に向かって伸びる螺旋
僕は眩暈をおこしそうになって視線を落とし
階段の下で佇んでいるきみにヨーヨーを手渡しながら
そっと きみのからだを抱きしめた
そして ぼくらは
不器用にキスをした
ヨーヨーが手からすべり落ちて
音もなく 地面に転がった
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