初産/むらさき
 
なったのだった

わたしはいつも決まって赤ちゃんの
やわらかい栗毛を撫でさせるのだった
得意げなわたしはその時いつも小鼻を膨らませていて
その顔を見たわたしの父親は少し祖母を思い出すのであった

たくさんの太陽や
月や
星が

相も変らぬお勤めをし続けて

わたしは
ようやく
成人した
 
振袖をきたのだった
母が着ていた絞りの赤いおべべ

それでも
わたしの赤ちゃんはいつまでたっても
赤ちゃんのままであった

歯は二本しか生えておらず
髪は相変わらず柔らかい栗毛だった

「おめでとう」

彼女が話した初めての言葉だった

わたしは
「ありがとう」と言って

彼女の薄汚れた頬を袖でぬぐい
栗毛の匂いを嗅いだのだった

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