孔雀/ZUZU
 
なにんげんになってしまったのだろう

昔、美術の時間に
必死で描いた動物園の孔雀の絵を
そういえば
やたらと誉められたことがあったな
あの絵はずいぶんいろいろな賞をもらったはずだ
お母さんも自慢して
玄関に飾っていたような気がする

ああそれは感傷だ
たしかあの絵は孔雀なんかじゃなく
さびた鉄橋を描いたのだ
にびいろで雨にとけてゆくさびしい夕暮れだった

恋人はぼくのあれが好きだという
あれってどれっていえば
あれはあれよと煙草をふかす
あれはあれでそれとかこれではないんだろう
ぼくの絵とかではないのだろう

孔雀はもの思いにふけるように
眠っているのか
ぼくのとなりでしずかに閉じた羽をふるわせていた
ぼくは起こさないだろうかと気を使いながら
降りるはずの次の駅で降りようとおもう

むかいの空はもう暗くなっていて
窓にはぼくと孔雀のすがたが
ありありと映しだされていた
いっしゅん孔雀の羽がそらいちめんにひらいたような
ぼくのこころがねがいのように放たれたような
そんな気が
したようにおもう


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