気づき/むらさき
 
君がベージュの毛布にくるまって
あざらしの出産をテレビで観ている

そしてその横顔をぼくは見ている

ぼくを見ていない君は
ぼくの知らない女のようだ

横顔は画面の光に照らされて
君の歴史を浮き彫りにする

黒い海に浮かぶ孤独な流氷のように

君はそっと涙する
あざらしの母性に心打たれて

ぼくはそんな君を見つめる
名前も分からなくなるほど

性を知らない雫が
消え入りそうな輪郭を描く

ぼくの指が君の頬を
つたっていくより優しく
一定で
的確で

ぼくはそんな様子を見て
聞こえない舌打ちをした

12ヵ月後の君がそこにいたから

毛布から少し出た
赤い色のつま先は
いつだってぼくに
ザクロを思いださせる気がした
12ヶ月後の今夜だって

そしてぼくは
恋の因子がなんであるかに気づいた

ゆっくりと
あざらしが黒い海に入った瞬間
「好きだよ」とぼくは君に言った

君の穏やかな右耳に向かって

奇異な形の流氷にかける
まじないのつもりで

ぼく達は抱き合った
まるで一人のように

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