有刺鉄線の鴉/士狼(銀)
幼い頃
僕の左手は よく包帯に抱かれていた
今よりもっと 周りよりずっと
何にも関心が無かった ±ゼロの絶対零度
凍った心に響くのは 痛みだけ
立ち入り禁止の野原の前で
有刺鉄線に 左手で吊られた
温かい夕日が眩しすぎて 紫の雲に
誘拐されたかった
滲んだ血と痛み
それだけが 生きている証だった
医者である父に何度 諭されても
僕は 有刺鉄線に吊られた
きらきらと輝いて
どこまでも赤かった 灯火
傷痕すら残らなかった 淡い証明
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