きんいろのうた(絵と夜明け)/木立 悟
呼んでいる
暗く 暗く 呼んでいる
ふところに抱えていた絵が
風に飛ばされ いってしまった
その一枚一枚を
呼んでいる
暗がりのなか
緑に染まるきんいろが
欠けた器から流れ出ている
目覚めたままの両目の前に
朝露の蜘蛛はおりてきて
鈍くまぶしくまぶたを覆う
夜明けに夜明けを失くしたものが
奏でつづける双つの音楽
白くかがやく渦の音楽
ひとつひとつが牙の雨のなか
飛沫の羽にかがやく鉄の背
減ることのない標の鉄の背
噛み砕かれたちからとちから
胸に見えない滴を抱え
よろけながら道をわたる火
枯れ穂に隠れた道は逃げ水
枯れ穂をふちどり揺れている
よせてはかえし 揺れている
土にまみれた絵と夜明け
野のあちこちに散らばっている
拾おうとしても拾えない
それらは既に根づいている
やがてひろがる葉の波は
失くしたものを呼ぶ声に
行くあてもなく駆る声に
きんいろにきんいろにさざめいてゆく
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