フランケンシュタインの夜/千月 話子
しい腕ばかり見ていた
左手が思い出す祈りを絡ませ 指先で
薄桃の木枠のはまる西洋窓から 彼女のふくよかな胸ばかり見ていた
私のときめきが 零れ落ちても
白いレース揺れる西洋窓から 私達は女の息づく腹を愛おしく見ていた
可愛い我が子よ あそこへお行き
枯れ枝のしなる西洋窓から あの人の陶器のような頬を見ていた
夜を迎える低い陽に 産毛の光る
ひび割れて日々割れて行く西洋窓から 波打つように落ちて行く
貴婦人の 絹のような栗毛を見ていた
私の形良い頭に海を 描きたい
この街で生まれ、この街で育ち、この街から旅立った
愛しい人を待ちながら
私達の部位を人でなしに奪われようとも
青い海の見える この西洋窓から想い続ける・・・
もう誰も居ないのに 誰かが居るような家々
その高台から 人々が名所を廻る様に覗き見ると
窓の連なりに 彼女らは知らず重なり
形良く 美しい人になる
「フランケンシュタインの花嫁」と題された
古く 壊れかけた街で
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