夜 と/塔野夏子
夜と交わす記憶は
あらぬ方向へめくれてゆく
形の定まらない部屋に
ひとつまたひとつと
見えない炎がともってゆく
この身体のそばを通るとき
時の流れは
とまどったようにとろりと遅くなる
窓の外では
気配だけで出来たいきものたちが
ひそやかに囁きあっている
やがて私は
幾たびも
自らの内に墜落する
幾たびも
自らを受胎する
其処から歪んだ波紋を押しひろげながら
それでも届かない深い処にある
ひとつの錘(おもり)
そのまわりを取りまく
ゆるがぬ黒い沈黙 が
夜が深まるごとに
際立ってゆく――
窓の外では
気配だけで出来たいきものたちが
ひそやかに戯れあっている
夜と営む記憶は
あらぬ方向へめくれつづける
そしてつぎつぎと
見えない炎に蝕まれてゆくから
私はそれを
読み解くことができない
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