時代/たもつ
やす子
やす子の名を3回呼んだ
4回呼んでも
やす子はもういない
4.
その日、私は公園で
午後の半日を素描に費やした
散歩途中の杖をついたおばあさんと
寒いですね、なんて話をした以外は
夕刻になり
役場のスピーカーから音楽が流れ
人々は足音を鳴らしそれぞれの家路につく
帰るべき場所があるならば
私もそろそろ帰るべきなのだ
・
公園のベンチ
男が忘れていったスケッチブックは
すべてが空白で埋め尽くされており
最後のページにだけ擦れた文字で
女と思しき者の名前が書かれていた
いつしか雪が降り始め
すべてを白く覆い尽くそうとしている
残痕も
残像も
残響も
その小さく白いものの降って来るところを
人々が空と呼んでいる
戻る 編 削 Point(17)