時代/たもつ
 

やす子
やす子の名を3回呼んだ

4回呼んでも
やす子はもういない




4.
その日、私は公園で
午後の半日を素描に費やした
散歩途中の杖をついたおばあさんと
寒いですね、なんて話をした以外は

夕刻になり
役場のスピーカーから音楽が流れ
人々は足音を鳴らしそれぞれの家路につく
帰るべき場所があるならば
私もそろそろ帰るべきなのだ



公園のベンチ
男が忘れていったスケッチブックは
すべてが空白で埋め尽くされており
最後のページにだけ擦れた文字で
女と思しき者の名前が書かれていた
いつしか雪が降り始め
すべてを白く覆い尽くそうとしている
残痕も
残像も
残響も


その小さく白いものの降って来るところを
人々が空と呼んでいる



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