小詩集「書置き」(九十一〜一〇〇)/たもつ
 
のか
僕は知らないし
多分仲居さんも知らない
夜、部屋の電気をすべて落とすと
他に瞑るものが無いので
眼だけを瞑って寝た
笑わないで欲しい
このまま死んじゃうのかもしれない
と思った僕の弱さを

+

もっと優しく
あなたを発音したい
あなたは僕の書置き
僕のすべてを記憶する
唯一の証人
あなたが夕食の支度をしている間
僕は風呂の掃除をする
誰もいないリビングのテレビから
刑事になりきった役者の
罵声が聞こえてくる
そのような優しさで
あなたをもっと発音したい
二人で今日も
たくさん生きてしまった





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