小詩集「書置き」(九十一〜一〇〇)/たもつ
 


部屋に突然インドがやって来て
勝手にインダス川を氾濫させるものだから
部屋は水浸しになるし
大切にとって置いたものも
すべて流されてしまった
これは何の冗談だ、と
食って掛かってはみるものの
インドは冗談の通じるような顔つきではなく
どこが顔なのかもわからないまま
忽ちガンジス川までも氾濫させた

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空から降りてきたつり革に
僕はつかまっている
どこか遠くの国では
つり革につかまりたくても
つかまれない人がたくさんいるのに
これはいったい何の手続きなんだろう
走馬灯のようによみがえるのは
雨戸の開け閉めとか
芯の取替えとか
そんなことばかりな
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