見たことのない海/
千波 一也
水は途絶えを忘れる薬
波を待ち望む青年や
イルカを愛する少女の瞳
波うち際に揺れる小舟や
小高く揺れる果樹の枝
彼ら
彼女らの
その目の海は
わたしには見えない
けれど
水は途絶えを知らないゆえに
わたしはその海を
知っているのだ
見たことのない海は
幾らでもある
なんとも絶望的なその裏に
知っている海もまた
幾らでもある
クルスの形に腕を組み
船頭のいないゴンドラで独り
こころを運ぶ波を迎える
水に生まれた者として
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