見たことのない海/千波 一也
 

水は途絶えを忘れる薬

波を待ち望む青年や
イルカを愛する少女の瞳

波うち際に揺れる小舟や
小高く揺れる果樹の枝


彼ら
彼女らの
その目の海は
わたしには見えない
けれど
水は途絶えを知らないゆえに
わたしはその海を
知っているのだ


見たことのない海は
幾らでもある
なんとも絶望的なその裏に
知っている海もまた
幾らでもある


クルスの形に腕を組み
船頭のいないゴンドラで独り
こころを運ぶ波を迎える

水に生まれた者として




戻る   Point(19)