天国への道順/佐々宝砂
 
天国の緯度経度は
ラファティのじいさんが教えてくれた
地獄がもうないってこと
神も悪魔も死んだってこと
でも天国はこの世にあるのだってこと
ラファティのじいさんが教えてくれた

ラファティのじいさんは電気技師崩れで
アル中で
きたなくて
年くってぼろぼろで
知性のかけらもなくて
詩人の名前も哲学者の名前もしらない
だけどラファティのじいさんだけが
天国の緯度経度を教えてくれた
天国は地上の
いまではない時間の
でも確かにここから行けるところにあるって

天国ちかくの沖の
潮くさい飛沫のあいまからは
魚の顔した人魚が顔を出すのだって
毎朝きちんと百三十の卵
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