街(神戸より)/藤原 実
 

記憶の中の森で
一羽の鳥が巣立ちする
遙かな大陸に向かって
記憶の中の街で
柔らかい雨が舗道を濡らす
恋人たちを祝福して

あの火曜日の朝
私たちの街は一瞬で崩れ去った
あの日から
私たちは記憶の中に生きはじめた
記憶の中の瓦礫
記憶の中の残骸

六千の死と
六千の運命の重み
そのいたましさも
その悲惨も
私たちと共にある
なぜなら
六千のいたましさも
六千の悲惨も
私たちと共に
同じ記憶の中の街に埋もれている

あの火曜日の朝
街は私たちの記憶の形ごと
一瞬で崩れ去った
あまりの出来事に
あまりのあっけなさに
私たちはむしろ笑うしか
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