苦い子守唄/岡部淳太郎
夜の星の下で
俺とおまえとこうして立ちながら
静かに汚れてゆく
川を見つめている
昨日から明日へ移動するためには
おまえの脳髄に流れるこの川を
わたらねばならぬ
でなければ俺たちは
いつまでも死臭漂う今日のままだ
おまえはおまえの
胃の中の内容物を吐き出さねばならぬ
コルクの蓋だとか
割れたガラスの切れ端だとか
折れた傘の柄だとか
そうしたふるい
傷つきやすいものを
海までまっすぐに吐き出せば
もう
何も身を守るものはない
ないのだが
その覚悟を
羊の毛皮とともに
育てなければならないのだ
おまえはいまも
水面を見つめて遠い眼をしているが
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