夜警/MOJO
沈んでいる。家で、安全な屋根の下で、寝台の上で手足をのばし、あるいは丸まって、シーツにくるまれ、毛布をのせて眠っているとしても、それはたわいのない見せかけだ。無邪気な自己欺瞞というものだ。実際は、はるか昔と同じように、またその後とも同じように、荒涼とした野にいる。粗末なテントにいる。見わたすかぎりの人また人、軍団であり、同族である。冷ややかな空の下、冷たい大地の上に、かつていた所に投げ出され、腕に額をのせ、顔を地面に向けて、すやすやと眠っている。だがおまえは目覚めている。おまえは見張りの一人、薪の山から燃えさかる火をかかげて打ち振りながら次の見張りを探している。何故おまえは目覚めているのだ? 誰かが目覚めていなくてはならないからだ。誰かがここにいなくてはならない。
「夜に」F・カフカ 池内 紀訳
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