ある旅立ち/MOJO
 
ようです。何故なら一度異界へ旅立ったものは二度と同じ姿では戻ってこれないからです。
 そしてあの夜、改めて旅立つ気があるかと尋ねられたとき、ぼくは気がついたのです。ジルに固執していたのは、ぼくの異界への憧れのためだったと。ぼく自身の人生へ向かう姿勢こそが異界からジルを呼んだのだと。
 最近、ようやくそちらとこちらとの境目にいた時期を整理して考えられるようになりました。心配してくれていたアケミちゃんを懐かしく思うようになり、元気でいることを知らせたくこの手紙をしたためました。
 ではお元気で。ご自愛ください。
 
                         ネリオ  

 アケミはその手紙を読み終わると、封筒に戻してカウンターの上に置いた。
 リモコンでCDデッキのスイッチをいれるとシンディ・ローパーが歌う「タイム・アフター・タイム」が流れた。
 アイスピックで氷塊を砕きながら、アケミは少し泣いた。



                            <了>

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