ある旅立ち/MOJO
 
あった。
 
 ネリオは人当たりこそ良かったが、屈託することを人生の前提にしているようなところがあった。しかしジルが現われるようになって、日常に軽快感がでてきたと感じていた。いつもすぐそばで黒々と横たわっている屈託がすこし和らいだように思えるのだった。
「ネリオくん、今夜はお湯割りにしたらどう?」
 ある晩アケミが言った。ネリオはアケミの提案を受け入れた。そろそろアケミがそんな提案をするような気がしていた。
「ねえ、まえにクマ郎さんの話をしたの憶えてる?」
「ああ。クマ郎さん、最近会わないね。おれとは行き違いがばっかりだな」
「クマ郎さんは半年以上ここへは来てないの。他のお客さんから
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