秋がない/ZUZU
美術館の帰りに、
大学のなかを歩いた。
落ち葉を踏みたいと彼女が言い出したからだ。
果たしてキャンパスにはまだ踏まれていない落ち葉が、
たくさんあったかというと、
「朝、雨が降ったからね」
まあね、とぼくはあいかわらず曖昧だった。
「思い出には秋がないのよ」
絵はエゴン・シーレだった。
ぼくは趣味じゃなかった。
彼女は幸せな絵には何も惹かれず、
不幸な絵にはとても惹かれたらしい。
だれの思い出のことだろう、
ぼくはすぐに返事ができず、
彼女は勝手にしゃべるので、リズムがあうのだ。
夏の終わりに引っ越した。
南から北へ、遠いところへ。
だから、秋がくるまえに
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