街と光/木立 悟
 




橙色の風が吹き
壁をめぐり
木々を螺旋に上下する
ふいに無数の猫になり
屋根の高さの季節を乱す


吐息が導く双つの手のひら
合うようで合わないはざまから
遠く見知らぬ街が見える


美しい檻のなかに
美しい考えがいて
近づくものさえいないまま
空のひとつを見つめている


肌の内側
青に青に
遠くへ振る手
ゆえにゆえに
奥へ奥へゆく光
ひたいからひたいへ飛ぶ光
過ぎ去る流れを追う光


渦の上を渦がまわり
渦はさらに速くなる
道の外へ 道の外へ
金の水はしたたりつづけ
土のかけらの鏡となって
野を冬枯れに梳いてゆく


低い陽の道
ななめの光
影と影ではないものに
午後を変えてゆく光
街は淡い冠になり
小さく小さく小さく分かれ
道を駆ける無数の猫の
しなやかな背にかがやいてゆく






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