西域に消える/MOJO
さと消えちまいな。翁はそう叫んだのかもしれない。
一夜明けて、きょうはこのオアシスの周囲の遺跡群を観に行く。二千年まえの貴人のミイラが埋葬されている遺跡や、三蔵法師が滞在したと言い伝えられる遺跡を周って、やれやれクソ暑いなか、我々はここ火焔山の麓までやって来て陳さんの与太ガイドを聴いている。
しかし、砂漠に点在する遺跡はどれもこれも建築用の造成地ようで味気ないこと甚だしい。涼しいお茶の間から、腕の良いカメラ・クルーが撮った映像を良い声のナレーションで見るのとは大違いだ。しかし、それはどうやら私個人の感慨ではなく、このツアー一行の全員が掛かってしまった集団催眠のようであり、つまり消えてしまいたいのは私だけではないようだ。
「陳さん、もういいよ。ホテルに帰ってシャワーを浴びようよ」
見ると、陳さんの下半身が透き通り始めている。先生方の何人かはもう全身が透き通り、輪郭だけが陽炎にゆれている。私はすでに輪郭すらぼやけはじめ、時空の彼方に消える準備は整った。
〈了〉
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