スプートニクの泣いた話/蒸発王
『何故?』
『名前は目に見えないから』
奇妙な犬だった
吼えないし
尻尾もふらない
でも
大きな澄んだ蒼い目と
大きな耳を持った
素敵なメスだった
五日分の酸素と水
誰もの強い願いと
彼女を乗せて
僕は飛んだ
僕に開いた
丸い眼球から覗く
あの
小さな天体は
彼女の目とそっくり
蒼い
蒼い
地球
窓を覗いて彼女は言った
『オオイヌ座まで行きたいの』
『無理だよそんなの』
『何故?』
『僕がスプートニクだからだよ』
僕は
インプットされていないはずの
嘘をついた
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