一枚の葉に浮かぶ顔/服部 剛
 
ぼ}ってゆく

地上の王となる為ではなく
時を超えて手を差しのべる人の胸に住む者となる為に
草木一つ無い裸の坂道を這うように
汚れた二本の細い足は上ってゆく

薄い胸の内に宿る
透明の魂から流れる
一筋(ひとすじ)の赤い血はぶどう酒となり
哀しみに過ちを犯してうなだれた者が
差し出す盃を満たすだろう

抗いを知らぬ従順な緑の葉が一枚
一本の細い茎を離れ

  ひらひらと

激しい川の流れに飲み込まれ危うく揺れる小舟になる

やがて沈黙の潮騒を響かせる夜の海に辿り着いた一枚の葉は
満月に見守られて凪いだ黒塗りの海の上に浮かび
そそがれる月の光で小舟の内を満たすだろう

盃のぶどう酒を飲んだ者の
胸の内にうっすらと輪郭を現し始める

  光を帯(お)びた一枚の葉

頭(こうべ)を垂れて瞳を閉じる独りの柔和な顔が浮かんでいる


  
    * 自家版詩集「明け方の碧(あお)」(01年)より 




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