小詩集「書置き」(五十一〜六十)/たもつ
 


手に触れるすべての
温度と湿度が
いつもより優しく感じられる
マリオをやれば
たくさんコインを取れる気がする
喪服に袖を通す
今日はもう
泣かずに済むのだと思う

+

こっちのセリフだ
とあっちが言うので
そっちはもう
どっちでもない
そんなことはどうでも良いが
きみが並べた出鱈目の様に
今朝から寂しい

+

鍵盤をひとつひとつ
失いながら
ピアノが
海を沈んでいく
最後まで
多忙であった

+

犬自身の中に
犬小屋はある
遊ぶのに飽きて
帰ろうとするが
夕暮ればかりが続き
いつまでもたどり着かない

+

[次のページ]
戻る   Point(12)