廃屋の詩人/紫音
 
鬱蒼とした樹林の中に ぽつんと
廃屋を見つけて嬉々として騒ぐ
住む者のいなくなった がらんと
した埃まみれの部屋を磨き彩る

あのベッドはどうしようか?
軋む階段はいつ直そうか?
割れた食器はどこの国の物だろうか?
些細な事に一喜一憂する

生まれ変わったように見えるまで
趣向を凝らし、塗りなおし、修復し
元の雰囲気など欠片も無い、新しい
世界を創り上げていく

まるで自分のものであったかのように
際限無く
あらゆるものを
その色に染めていく

表札を掲げ
その部屋に籠もり
日が昇り、また日が暮れて
幾年月も繰り返す

誰も訪れる者とて無い
自我の城を築きあげて
時折吹く強い風に煽られては
独り 揺らめく蝋燭の炎を見つめる

使い古された幾多の家具の中に
ありったけの情念を片付け
創造の多産を壁に書き付ける そんな
自賛の毎日
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