長い長い町の話/うめバア
 
人に、真新しい時計を
配らなければならなかったんだから

そして、だいたいの市民がそのことを
とても、喜ばしく思ったにちがいない

時計工場の土地の片隅には
閉鎖された防空壕があった
戦争の時に作られた防空壕だけど
誰もそのことについては
あまり語る時間を持たなかった

町は市になって活気があったし
人も増えていた
第二次ベビーブームの若者が
高校へ、大学へと進学する頃に
「バブル経済」と呼ばれた一時期が来て
物質に満ちあふれた世界は
やたらときらびやかで
忙しかった
昔のことを思い出すのは
ちょっと、カッコ悪かったのかもしれない

それからまた20年
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