わが原風景/岡部淳太郎
 
んげ畑は、その後駐車場になってしまったらしい。もっとも、これもまた、後になって他の情報とごちゃまぜになって、記憶が改変されてしまっているのかもしれないが。
 その後、僕等家族は同じ神奈川県内の二宮町に引っ越している。れんげ草の原風景からわずかに離れてしまったが、その町でも、記憶に残る様々な出来事があった。だが、それはまた別の話だ。
 人の記憶に残る原風景、それはその人の人生に静かに影響を与えつづけ、物言わず、記憶の中に鎮座している。原風景を懐かしみ、それを癒しの場所として、現実からの逃避の場所にしてしまうことも可能だろう。だが、せっかく長い年月の中にさらされても残りつづけているのだから、それを逃避の手段ではなく、もっと有効に使いたい。原風景から逃げるのも、原風景に逃げこむのも、出来れば避けたい。原風景を出発点として、それに適切な肉付けをして、より大きな生へと踏み出すことが出来れば良いと思う。
 僕の記憶の中に残るれんげ畑は、いまも春の日の紫色の輝きを放ったままだ。



(二〇〇五年十月)
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