秋の乳房/黒田康之
仕事に疲れたおまえが
こんなわたくしの部屋に帰り着くと
雨にぬれたおまえは
いつものように静かに服を脱いだ
行き場のない案山子のようなジャケットを
お前はハンガーにかける
遊んでもらえない操り人形のようなジャケットは
すべての力と切り離されたように
わたくしのスーツの横でうなだれる
私は芋焼酎をすすりながら
衣擦れと小雨の音を聞いている
水気の多いおまえが灰色のブラウスのボタンをはずすと
ふくよかな栗色の乳房が見えた
秋の乳房だ
レースの黒いブラジャーにその半分を隠された
豊かなみのりのようなその乳房は薄く湿ったブラウスを弾き上げるように
このわたくしの
この部屋の空気に触れる
決して愛なんて言わなくてもよくって
ただその柔らかな秋の実りの栗色の
肌の甘いにおいがだんだんに
わたくしとこの部屋全部の空気と入れ替わってゆく
ああ秋の乳房だ
おまえの肉の奥の奥から
滴るような
秋の乳房だ
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