シリーズ「おじさんと僕」1/ベンジャミン
(その1 時計屋のおじさん)
裏通りにある時計屋のおじさんは、まるで手品師みたいに器用だ。
おじさんの大きな手からは想像もつかないような、ちいさな部品をちょこちょこといじると、さっきまで動かなかった時計がコチコチと動き出す。
おじさんの背中のうしろには、おじさんよりも歳をとった時計がかけられていて、それは全部おじさんが直したものだと自慢げにはなしてくれた。
「どんな時計でも直してみせるよ」と、おじさんは言う。
けれど
「時計は直せても時間はあやつれないよ」と、言って笑う。
おじさんの手の中で嬉しそうに時計が動いている。
その一秒ごとに刻まれてゆくものは一瞬と呼ばれるものだけど
ひとつゼンマイを巻き終えるたび
おじさんはそれをもったいなさそうに見つめながら
その深いしわくちゃの笑顔に、ひとつひとつ刻もうとしていて
その笑顔の中には
見えるはずもない時間が見えるような気がする。
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