喪失の記/木葉 揺
ツは言っていた。
「そうか」
会計を済ませて走って帰り、庭の蛇口をひね
りたっぷり水をはっていたのだった。
数日経った今日、軽やかに空回るミジンコの
足に清涼感を感じてからはこの通り。
もっとミクロに! もっと極小に!
瞬きもせず分け入ってゆく・・・
ミジンコやゾウリムシたちが次第に頬と同じ
大きさになり、ボルボックス、アオミドロが
迫り来て、ついに見えたイカダモ・・・!
「え?何?」
ザバアッ!
「今確か『x』って」
ゴローン、ジャアアアアア・・・
もう放っておいてくれ、と背中を向けたまま
の青バケツと放心状態の私は、つたい来る滴
たちにゆっくりたしなめられている。
とりあえず毎日水を入れ替えればいいのか?
そもそも何のために水を!
私はため息をついて、青バケツの手をとって
助け起こし、小さな花壇の横に落ち着かせた。
「しばらく考えさせて」
そう言って部屋に入るのが精一杯だった。
戻る 編 削 Point(6)