喪失の記/木葉 揺
バケツに頭を突っ込んで、水の中の微生物
を見ていた。はがれそうなコンタクト。ギリ
ギリのところで私は目を閉じる。
あれ?今、確かにイカダモが!
ザバアッ!
顔を上げた勢いで、バケツの淵を掴んでいた
両手に妙な力がかかり、バケツは引っ繰り返
った。
西陽が目の前できらめいていた。幼い頃のガ
ラス球ネックレスを暖簾の様に分けると小さ
な庭だ。しりもちをついた目の前、プラスチ
ックの青バケツが転がる。
微生物はぜんぶ流れてしまったのだろうか。
考えてみれば、誰が微生物を飼えと言ったの
か?「水を入れてもいいよ」と、あの日の雑
貨屋の棚で目が合った青バケツは
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