私の偶像に捧げる五つのエチュード あるいは 直喩の二十五の文例集/佐々宝砂
屋の汚れを神経質に指摘する生真面目な豚、
しかし辛抱強い精神科医と同じくらい真摯に紳士的に、
労働者政党にこっそり寄金する貴族を思い出させる態度で、
フロントガラスの油膜のごとくしつっこく。
彼はもがく、
日常に屹立する塔に他ならぬ言葉を求めて、
さながら甘すぎる飲料の中で懸命に発酵を試みる乳酸菌、
あたかもコンクリートに封じ込められた放射性物質、
ちっともヤマの当たらぬ詩的山師と名づけるべき、
その不様な姿はまさに殺虫剤をかけられたゴキブリ。
そしてなおも彼は語る、
除草剤を撒いた土手に揺れるコスモスと同じほど不敵に、
暗渠の流れを思わせる重く沈んだだみ声で、
あるいは私を融かしてしまいそうに甘くささやいて、
私のあらゆる細胞を浸食せんばかりに。
けれど彼は偶像。直喩の鏡に映った、幻の影と呼ぶべきもの。
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