私の偶像に捧げる五つのエチュード あるいは 直喩の二十五の文例集/佐々宝砂
 
彼は語る、
砂糖壺に群がる蟻のように勤勉に、
生まれたばかりの赤んぼ並に計算高く、
梅雨時になると痛み出す古傷の神経組織に似て巧緻に、
洗ってもこすっても落ちない風呂場の汚れよりも執念深く、
季節はずれの台風と変わらない大胆さで。

彼は演じる、
偽善者じみた爽やかな笑顔から白い歯をのぞかせて、
埃だらけのブラウン管に潜む正義のヒーローみたいな仕種で、
税務署から来た請求書を連想させるクールな口調で、
断食僧めいた抑制をその身に課して、
津波そっくりに私たちの自我を優しく押し流して。

彼は嘆く、
洗面器の中の吐瀉物とでも言うべき虚しい言葉の群を嘆く、
まるで小屋の
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