午前中の浴槽。/杉田蝶子
 
ぬるい水につかって、夕方の匂い。
もう、あがりたいのに、
冷たくなりそうで、まだあがれない。

ふやけて、
子どもに戻っていく。
ふやけ終わって、
もう変わらない体にあまえて、
まだ、なまぬるい水の中。

そう、変われない。



一人のあなたと、ひとりの私。



よごれたところは
泡でかくして、
流さないまま、
気づかないふり。

頭まで水につかって、
声もない、
視線も絡まない、
そんな、
ゆがんだ水の中。



一人のあなたと、ひとりのわたし。



窓の外で日が落ちる。
青とオレンジのグラデーション。

滲んでく。



一人の私。
ひとりのあなた。



浴槽で、
折った体が軋んで痛い。

オレンジが薄らいでゆく。




さあ、
もうお上がり。



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