首筋の紅/黒田康之
 
夏が去って
私は久しぶりに襟のあるシャツを着た
それでも秋風がいつのまにか
襟元から心の奥の方へとしみこんでくる
夏は毎日飲んでいたアイスコーヒーの器を
背の高い
細いグラスを洗いながら
何度も何度も洗いながら
夏を仕舞う毎日である
熱を帯びた日の光を
何日も何日も吸い込んでいたせいか
グラスはいつまでも輝いていて
暗闇にはそう簡単に収まりそうもないのだ

あれはそうだ いつか見た女だ
確かにあの女だ
以前より頬はこけ手足は細くなっているけれど
目尻を下げて笑い出しそうな目は
それとは別の涙の重みを抱きしめながら
また私の前を歩いてゆく
つややかな細い髪をふ
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