飛光/ワタナbシンゴ
 
めている田中課長は鳥瞰図のプロだ。
だいたい眼にした範囲の風景をそのまま鳥瞰図にし
てしまう。ある日の休日、善福寺川のほとりで田中
課長は鴨を眺めていた。季節は晩秋の深みにいた。
万歩計は37万キロをさしていた。遠くの団地で布
団をたたく音が2ビートを刻んでいた。田中課長に
子どもはいない。妻もいない。そしてもちろん、親
も、いない。それでも田中課長は45歳のこの歳ま
で決して人と比べることなく、自分は満たされてい
る、幸せだと感じて生きてきた。鳥瞰図とはそうい
うものだった。偶然の葉が水面を揺らした。それが
合図だったかのように鴨たちは一斉に飛びたった。
田中課長はいつか
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