命考/薬本 祝人
 
生きている
何にもないのに生きている
あたりまえに息をして
あたりまえに目が覚める
食事をして排泄をする
歯磨きをして服を着替える
愛し合って憎み合う
隣で君が鼻をかむ

何にもないのに生きている
何にもないから生きている
生きているから何にもない
生きているのに何にもない
無機質な光の反射を目に映し
記憶だけで残像を辿りながら
行き着く場所に懼れをなして
畏懼の淵に咲く花を抓む

才能がゆえに華麗に咲く花
才能がゆえに華麗に散る花

花を飾って君は泣く
空は晴れ渡り
仲秋を帯びた風はこんなにもやさしいのに
花が枯れたと君は泣く
目の前の撫子は
小さな花を咲かせているのに

何にもないと君は泣く
何にもないのに生きてもいいのかと問う
命の限りに答えはない
どうか逃げずに見届けて
その命に続くものを抱え込み
ふわりと浮いて生きてゆけ
たくさん抱えるほどに君は浮けるはずだから



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