茨の王子。/杉田蝶子
目を閉じて、願っていた。
月が近すぎて悲しい夜。
さよならのキスは、少し冷たかった。
茨の中で愛した人を、
逃がしてしまった、悲しい夜。
ちがう。
血を出しながら、
茨の闇をかき消してくれた、愛する人。
最後の夜を過ごすことさえこわくって、
二人、このまま枯れてしまいそうだった。
願っていた、目を閉じて。
さよならの後の唇が、
涙を堪えてかんだ唇が、
赤く滲んで、
あたたかい。
手が届く月はいらないね。
そうしてきれいに輝くのなら、
一番 愛おしく思える場所で、
また、唇を恋えばいい。
目を閉じて、願っていた。
茨の闇は、もう消えたみたい。
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