アイスクリームとドライアイス/野島せりか
 
― お持ち歩きの時間はどのくらいですか?―
― そうね 20分くらい ―
店員は片方だけ手袋をはめて
おもむろに小さなドライアイスのかけらを一つ取り出した

もやもやと息を吐くような白い煙
その正体を私はずっと知りたかった

ドライアイスはアイスクリームのとなりに
まるで死体に寄りそうように
ぴったりと詰められた

手に入れることが出来ないと
ついには壊したいと願うもの
形と生活
あなたとわたし

約束の時間を過ぎて箱を開けると
あなたの気持ちは
屈辱を知らない
ドライアイスのように跡形もなく昇華していた

わたしは溶けかけて醜い姿をさらすだけ
アイスクリームのようにすべて溶けても
形の苦痛から解放されたところで
他に何も変わりはしない

それどころか 時間が経てば
あなたに怪訝そうな顔をされる
消えないシミになるだけ
今のうちに唾でもはきかけてくれれば
まだマシだよ
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