ラッシュアワー/藤原 実
プラットホームに着いた 銀色列車のドアがひらいて 夏の海が溢れだしました
ピストルが鳴って 貌のないメッセンジャーが フリースタイルで泳いできます 燃えあがるピアノの上の老いた漁師は差し出された若い女の手相の迷宮に釣り糸を垂らし 籐椅子に座った猫は本を閉じたり開いたりします スロウモーションのハッピィ・ヴォイス も聞こえてきます
サーフボードには制服の少女がひとり横座り 浮きながらしだいに遠くなってゆきます
さっき少女はいちまいの瓶詰めの手紙をながしました
「わたしはわたしを贈り物にしたくはない。わたしは獲得されたいのです」
それは 魂の宿る海のなかへ いく
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