未熟/千波 一也
 
わたしは みにくい獣だ

 鋭利な刃物を知っている
 (わたしの爪はいつも)
 鋭利な言葉を知っている
 (やわらかな皮膚だけを)
 鋭利な視線を知っている
 (傷つける)

みようとするのか
しないのか

違いは たったそれだけのこと

わたしは みにくい獣だ


 慣れたつもりの定規は掌に食い込んで
 (やわらかな皮膚はいつも)
 直線はみごとに白紙のうえに刻まれる
 (やわらかな皮膚はいつも)
 インクはこともなげに染み渡ってゆく



わたしは 生きてゆかねばならない

 ヒグマがサケを狩るように
 (わたしの爪はいつも)
 オジロ
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