歌集【天才の達人】/工藤伸一
 
髭を剃って髪を整えてよく見れば
鏡の中に天才が居た


理解らんね天才であるこの僕が
苦労しなけりゃならぬ理由など


僕が自分のことを天才だというと
「どこがなぜ何の天才なの?」
とうるさく訊いてくる輩が時たまいるが
野暮なこと訊くなよ、
天才は天才だから天才なのだ


或いはまたこうも言えるな
「僕は誰よりも天才であることにおける天才なのだ」


天才とは天才らしく振る舞うことだと思っていたが
どうやらそれは間違いではなかったらしい


朝七時
ゴールデン・バットを購いに行く天才的な僕の頬を撫でつける
風もまたやはり天才的ではあるまいかね?


「天才は何人いても構わないと思う」
なんて発言をたまにして
器量の広いところをアピールできる点もまた
僕の天才性のたまものなわけよ


「はじめまして
今度僕とセックスしませんか?
通りすがりの天才のこの僕と」


天才であることくらいしかとりえのない僕ではあるが
好きになってくれてありがとう


沢山のファンに混じりて
有り余る僕の才能に僕もひれ伏す
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