波音/たもつ
投げやりなタコ焼きが
ソースの匂いを振り撒きながら
僕を食べに玄関まで来ている
食べられたくない僕は
お守りを握りしめるけれど
よく見るとそれはカブトムシの幼虫
行き所を無くしたまま白く丸まっている
そんなことはお構いなしに
投げやりなタコ焼きは部屋にあがり込み
勝手に冷蔵庫を開け麦茶を飲むと
朝刊のクロスワード・パズルを解き始める
強く握りすぎて
幼虫は成虫になってしまった
メスなので少しがっかりもしたが
いつの日か卵を産めるように窓から放す
すべての桝目を埋め終え
投げやりなタコ焼きは僕をゆっくりと食べる
溶けていく音が波のようで良かった
胃にもきっと優しいはずだ
お父さん、お母さん
先立つ不幸をお許しください
人並みに言ってみる
本当は二人が生きてる間に言いたかった
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