夕方を前にして/黒田康之
 
あの娘が目じりを下げて笑うとき
あの娘の細胞はすべて等しく太陽となる

葉陰の虫が鳴いていて
昨夜はあんなに満月で
それでも逢いたい人に逢えなくて
淋しくて泣く女がいても

あの娘が目を潤ませて笑うとき
あの娘の細胞はすべて等しく太陽となる

いわれのない刃に切られ
血を流す男が呻いても
餓えた腹をどうしようもなく
うろついていた犬が死んだとしても

喉までも紅く
指先までも喜びに満たした
あの娘の
ひとつひとつが太陽である

漠然と
すべてに
あたたかく
陽光よ
降れ

たとえどんなにか悲しみがこの世に多くの花を咲かせても
たとえどんなにかかつてあった現実が何かの後ろで消えゆくとしても

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