泡沫/椎名乃逢
辺り静かな湖の桟橋に
腰掛け夜明けを待つ少女
膝下はひんやりと水に包まれて
いえ、包まれてと言うよりは
爪先からするりと湖面を砕き突き進む
清々しい南極船のような光景でした
掻き回される水は最初戸惑い
いくらかは少女の服に逃げたようですが
今はもう落ち着きを取り戻したよう
それはお互い待つものが同じだからでしょう
邪魔者の私は仕方なく西の空へ
澄んだ歌声に時折
拍を取る為の膝の揺れが
水に移り 湖面に移り…
水鏡の中の少女の頭上へ
丸く丸く広がって
輪っかを携えた 白い白い…
ふと鏡越しに目が合って
少女はふふっと笑って水の中へ飛び込んだ
驚く私を尻目に 桟橋の少し遠く
美しい尾ビレが水を 高く 高く 弾きました
今思うとあの水は 慌てる私に気遣って
渇いた喉にくれたのでしょう
湖面の私の色が薄くなり
夜はもう終わりです
水辺の少女も 水中の魚も
泡沫の夢はおぼろげに
眩しい現実に帰りなさい
また明日 私が昇るまで
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