最終バスの途中/たりぽん(大理 奔)
最終バスは一番後ろの席に座るのです
何となくそれが習性になっているのは
そこからは町の様子がよく見渡せるからです
蒼い街灯の下でたたずんでいる
停車場の表示を運転手は調子よく
鼻歌まじりに通過していきます
私のむかう停車場はどこだったかと
降車ボタンをぼんやりとながめます
だれかが目的地に着くと
場末のイルミネーションみたいに
紫色できれいです
毎日の日課を記した時刻表を
またひとつ通り過ぎます、通り過ぎます
座席の窓は合わせ鏡の暗闇に
亡霊のように風景を流すので
私には映る理由がないように思いました
だから、降車ボタンを押しました
自爆スイッチのように思い切って押しました
不意に時刻表が気になりました
バスはふり返りもせず走り去っていきます
ニュータウンの停車場の看板には
夢のような場所の名前が書いてはありましたが
時刻表には数字が並んでいるだけで
どんな生き方をすればいいのか
行き先は、記されてはいませんでした
わかっていたのは
もうバスは来ない
ということだけでした
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