歩道橋の上で/ゆきお
 
駅前の歩道橋の上で
8歳年上のあなたの唇に
指でそっと触れて
すっと横に動かしてみる

黒ぶちの眼鏡の奥の
あなたの瞳が
一瞬困ったような
そんな風に笑ったように見えた

私の髪をくしゃくしゃにして
かばんを持った手を引っ張った

あっ・・・と驚いて
一瞬あいた口から
少し歯が当たったのかもしれない
カチッという音と
やわらかい
あたたかい
あなたの唇が触れていた

逃したくなくてまわした腕を
するりとかわしながら
もう一度触れた唇

「困った奴だ・・・」

それ以上のことをきく勇気も何もなく
でもあきらめてしまえるだけの勇気もなく

ただ涙をこらえながら
何度目かのあたたかさを
覚えておく方法を
ずっとずっと考えていた
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