金鶏の声/佐々宝砂
 
低い山である。
釣客でにぎわう人造池と、
桜の並木が名物だが、
冬の夜明けには誰もいない。

狸しか通らないような、
細くて険しいけものみちが、
雑木のあいだを縫っている、
そんな山のどこかで、

毎年一月一日の明け方に、
金鶏が一声鳴くというが、
その声を聞けば幸福になるというが、
誰もその声を聞かない。

原生林がわずかにあるが、
ごく低い山である。





『百鬼詩集』収録の旧作。
正月用に、若干おめでための詩を、と思いまして。
金鶏伝説は各地にあるようですが、これはわが静岡県の西部、
静岡スタジアムエコパのある山に伝わる話です。


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