蜜柑の味/プテラノドン
 
「ぶち猫も欲しがってら。」
ばあちゃんの言うとおり、窓の外で三毛猫が
僕らが食べる蜜柑の行方をじっと見ている。
けれど本当に三毛猫が
蜜柑を欲しがっているかは知らない。
一体全体、僕は(きっとこれからも)
知らないことばかりだ。
今朝、近所に住んでいる佐久さんが
病院を抜け出して
長い道のりをバスにも乗らず
畑道ばかりを歩いて
泥だらけの足で
途中、八百屋で蜜柑を買って
トンネルを二つくぐって
腰の曲がった格好で
僕の家の玄関に立って
「いつも世話になっているから。」と言って
ばあちゃんに渡したその蜜柑の味だけだった。
「美味しかった。」ばあちゃんはそう呟くと
台所に立って、今夜は何が食べたい―?と訊いて
夕食の支度を始めた。その時、
僕はたくさんの可能性を考えていた。
それがこれから生きていく上で、
重要な事に思えて仕方なかった。
分かっていても知らないことや
知っていても分からない事が多くて
結局僕は、「何でもいいよ。」としかこたえられなかった。
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