瞼閉じて病床/山内緋呂子
月が青いのは
自分がロマンチックだからではなく
痛いと泣くこともなく
誰かと話すこともなく
ただ自分に戻るからだ
看護婦さんのピンクの衣装と
姪の持ってきた黄色いバナナで
ときどき外へ出るが
すぐ戻る
余裕があれば 赤い花など摘んでくる
戻った僕の上には
いつも白くてやわらかい布団があるので
僕もやわらかく見えている気がする
ほんとうは お見舞いに来てくれた人よりも
ふとんに感謝している
窓が思ったより大きいので
見えなくていいのに 毎日月が見える
検温みたいに毎日
月が白いのは 見たことがある
前に
隣の人は 消灯後
月が出ていてうれしい、と言う
「月の光で本を読む」
と ロマンチックなことを言う
僕には
上にのっかった白い布団の方がまぶしい
目をつぶれば 月は青く
今 目をあければ
月は白いだろう
でもそしたら明日
いやだ と泣いてしまう
痛い と泣いてしまう
だから
毎日月は青い
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